思想新聞2003年12月1日号【1面top】

自衛隊派遣でイラク国民支援を
国際テロの攻勢が一段と強まってきた。イラクでは8月にバグダッドの国連事務所が自爆テロに襲われて以降、無差別テロが続いている。比較的安全とされたイラク南部でも駐留イタリア軍が標的にされるなど、テロ攻撃が全土に拡大。さらにサウジやトルコに波及し、多数の死傷者を出している。こうしたことから自衛隊のイラク派遣を危ぶむ声も出ているが、それこそテロリストの思うツボである。テロに屈すれば、それに味を占めたテロリストはさらなるテロを仕掛けてくる。それが歴史の教訓だ。テロリストに屈しないなら、テロと戦うほかに道はない。日本国民は国際対テロ戦への決意を固め直し、イラクへの自衛隊派遣をひるんではならない。
国際テロ戦線が新たな展開を見せ始めた。
第一に、イラクで攻勢を一段と強めてきたことだ。イラクのテロ集団は、2千万のイラク国民の中のごく僅かな勢力にすぎない。旧政権バース党員の一部がサダム親衛隊とともに地下に潜伏、国際テロ集団と結託しているのが実態だ。その数は米国防省によるとは5千人規模。多く見積もっても数万人規模にとどまる。圧倒的多数のイラク国民はテロ集団の側に付いていない。
テロ集団は①フセイン残党勢力②アルカイダなど国際テロ集団③一部のスンニー派・シーア派イスラム原理主義組織の三つと見られている。
第一のフセイン残党勢力の狙いは、はっきりしている。フセイン大統領が健在で米軍攻撃を指揮し、いずれ米軍を追放して政権に復帰する、とイラク国民に思わせることだ。そうすれば国民は恐怖から米英軍やイラク統治評議会に協力しなくなり、混乱に拍車をかけられると考えている。
第二のアルカイダら国際テロ集団の狙いも明白だ。彼らは、テロによって米軍が撤退した八三年のレバノンのベイルート米海兵隊自爆テロを再来させたいのだ。同事件ではベイルートの米海兵隊兵舎に自動車による自爆テロが敢行され、海兵隊員ら241人の米国人が死亡し、その衝撃から米軍がレバノンから撤退した。これをイラクで再び、というのがテロの狙いだ。
テロの衝撃で撤退させる。その標的として八月にはバグダッドの国連事務所が自爆テロに遭った。テロ集団の思惑通りに国連はバグダッドから一次退避した。そして11月12日にはイラク南部ナシリヤでイタリア軍警察の現地本部に自爆テロが仕掛けられ、イタリア軍兵士ら20数人が死亡。これによって米英国のイラク復興活動を支持する親米諸国を揺さぶり、イラク支援をひるまそうとしているのだ。
第三のイスラム原理主義勢力は、米軍のイラク統治を異教徒の侵入と捉え不快感を抱く一部勢力で、彼らはこれまでも過激派の人材供給源となってきた。旧フセイン政権とは必ずしもうまくいっていないが、アルカイダなどの働きかけには応じ連携を深めている。
その国際テロ集団はイラク国内のテロ活動から周辺へと戦線を拡大し始めた。その手始めがサウジアラビアでのテロだ。
サウジアラビアの首都リヤドの外国人居住区で11月9日、自爆テロが仕掛けられ、20人近くのアラブ系外国人が死亡した。これはサウジ王室への揺さぶりといえる。9・11事件の犯人の大半がサウジ出身者であったように、サウジでは一部のイスラム寺院がイスラム原理主義者の養成機関と化しており、政府はイマーム(イスラム指導者、約6万人)のうち過激な1千人を拘束し再教育を行うなど、過激派狩りを進めてきた。
その結果、数千人規模の過激派がサウジからイラクに潜入し、アルカイダに入るなどしてテロ集団の一員になったとされる。彼らはサウジ王室を「親米でイスラムの教えへの背信者」とし、テロの標的にしてきたのだ。アルカイダと連動して自爆テロを行ったことは間違いない。
そしてトルコだ。トルコはイスラム諸国で唯一、NATO(北大西洋条約機構)に加わっている親米国であることは周知の通りだ。当初、イラクへの派兵を米国に約束していたが、クルド人問題が絡み派兵を見送っている経緯があるが、米国側に付いているのは変わらない。いわば米国支援の弱い輪を形成している。
そこを付くのがテロの狙いだ。11月15日のイスタンブールでの自爆テロは、2カ所のシナゴーグ(ユダヤ教会)がターゲットにされ、20人以上が死亡した。犯行グループはトルコのイスラム原理主義組織「大東方イスラム戦士戦線」を名乗っているが、手口はアルカイダのもので、アルカイダが関与しているのは間違いない。
そして11月20日、今度はイスタンブールの英国領事館が自爆テロに遭い、総領事はじめ30人近くが死亡した。ブッシュ米大統領が訪英し、ブレア英首相とイラク問題について論議している最中の犯行である。
このように国際テロ集団は、イラク国内から周辺の親米イスラム国、そしてイラク復興支援に当たる親米国へとテロ戦線を拡大してきている。その狙いはイラクのみならずパレスチナ問題も絡め、アラブの人々の反米感情を煽り、同時に親米国家を恐怖に陥れて米国との関係を分断、最終的にはイラクから米国を追い出そうというものだ。
とすれば、日本をターゲットにするのは明白だろう。アラブ誌にはアルカイダが「自衛隊をイラクに派遣すれば東京を攻撃する」とのメールが届いたという(各紙11月18日付)。アルカイダの戦略思考から見れば、親米の日本がターゲットにされても何ら不思議ではない。
では、日本は自衛隊派遣をひるむのか。それこそテロリストの言いなりだ。テロに屈すれば、テロリストはテロの効果を確認し、さらなるテロを仕掛けてくる。それが歴史の教訓であったことを忘れてはならない。
例えば、かつて日本政府が日本赤軍のハイジャックに遭遇した際、軍資金とテロリストの釈放を要求され、「人命は地球より重い」として、その要求に屈した。その結果、彼らは豊富な軍資金を背景にハイジャックを多発させ、多くの人命を失った。テロに屈すれば、さらなるテロを招くとの教訓を残したのだ。
日本国民はよくよく考えるべきだ。米軍がテロに敗北しイラクから去れば、イラク国民は幸福になるとでも言うのか。逆にフセイン残党・テロ集団の支配下に陥り、何百万人もの犠牲者を出すばかりか、国際テロの拠点となり、それこそ大量破壊兵器が世界のテロリストの手に渡ることになるのは歴然としている。はたしてそれでいいのか。
もはや後戻りはできないのだ。断固たる決意のもとイラク復興支援に全力を挙げるべきだ。国連決議1551もそれを促しているではないか。むろん、自衛隊を派遣する以上、武器使用基準を見直し、後顧の憂いのない態勢を構築すべきであることは言うまでもない。テロに屈するのか勝利するのか。それは日本国民に突きつけられている歴史的選択でもある。


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