思想新聞2001年9月15日号 視点論点
スタンフォード大学フーバー研究所顧問 片岡鉄哉

今月中旬の訪中を控え、ブッシュ政権が中国のNMD(米本土ミサイル防衛)計画への反対を中和させるべく、核軍拡を容認する発言をしたために反響を呼んでいる。これは選挙目当ての、ちゃちな小手先細工であり、失敗だったというのが私の判断だ。ブッシュが焦っている証拠である。
ブッシュの優先課題は、父親のように1期だけの大統領で終わらないことである。今、彼の念頭にあるのは、来年の中間選挙で下院での共和党優位を維持することである。
今春の滑り出しは絶好調で、内政の目玉商品である大型減税をあっという間に通過させ強気になり、少し右に寄り過ぎて地球温暖化防止の京都議定書を蹴ったりした。そこで中道の上院議員一人が脱党して、民主党が過半数を取ってしまった。これで外交の目玉商品であるNMDは座礁した。
民主党がNMDに反対する理由は、EUがロシアに配慮して反対することだ。これを潰すにはプーチンの賛成をとりつければよい。アラスカのNMD基地の礎石を冬になる前に打ちたいので、何度も彼と交渉したが、乗ってこない。そこで9月訪中を前に中国を抱き込もうという話になった。どうしても中間選挙で減税とNMDで票を稼ぎたい。経済が不況となった今、それ以外に点数稼ぎは出来ないのである。
切羽詰って中国に「NMDに賛成してくれる代わりに核軍拡を容認する」と持ちかけたのだ。中国の核軍拡容認は、それ自体は余り意味がない。これは米国が賛成・反対したからといって動く筋合いのものでない。それどころか、ブッシュ政権は、どうせ核軍拡をやると見込んで、容認の先取りをしようとしたに過ぎない。
これは選挙目当ての、ちゃちな小手先細工と言えるだろう。発言の主はラムスフェルド国防長官であろう。直ちにビーデン上院外交委員長(民主党)が「ミサイル防衛への拙速で、頑固で、非合理的で、神学的な欲望だ」と決め付けた。逆効果である。そこでライス国家安全保障補佐官が容認論を否定している。
逆にライスはNMDは中国を狙ったものでなく、アジアの安定に寄与するものであり、この点について中国の理解をとりつけるために協議をしたいと提案した。どっちみちはっきりしたのは、米国が中国のNMD認証を、議会対策の手段として、喉から手がでるほど欲しがっていることだ。
そこで中国が駆け引きに乗り出した。中国はNMDを台湾に譲渡しないなら賛成してもいいと提案している。上記したように、容認するしないは無意味なことで、肝心かなめの問題は、中国と北朝鮮の双方が核兵器と運搬手段をもっていること。そして標的が日本であることだ。アメリカでない。
米国西海岸まで届くICBM(大陸間弾道ミサイル)は、中国に20基しかない。北朝鮮のテポドンはアメリカまで届かない。ともかくアメリカを攻撃したら真珠湾の二の舞になる。必ず壊滅的な報復を受ける。これは実証済みだ。ではアメリカを脅かさないでアメリカを抑止する手段があるのか。日本を攻撃すると脅せばいいのだ。これで米軍はお手上げになる。
これを公に認めたのがペリー報告である。あれはテポドンが日本上空を通過して大騒ぎになった時に、クリントン大統領の査問に答えて書かれたものだ。元国防長官ウイリアム・ペリーは「今日の朝鮮半島では抑止は双方向に強く効いている」という。つまり北朝鮮の1、2発の核兵器で日本が人質にとられ、米軍は縛りつけになった。
そこでNMDという防御ミサイルが登場する。ロシアのように6千発も保持するならいざ知らず、1、2発なら打ち落とせるというのだ。テポドンが打ち落とせるとなると、日本は人質から解放され、米軍は戦闘の自由を取り戻すことになる。
では中国と台湾海峡で戦争になり、在日米軍が出動するとどうなるのか。相手は間もなく数百発の中距離核ミサイルを持つだろう。これに対するアメリカの答えは、上記した通り、NMDは中国を相手に想定した武器でないというのだ。
また、横須賀から出航したインデペンデンスが台湾海峡で中国と戦闘状態に入るとどうなるのか。米軍の基地も中国の敵になるのだ。この事態に対応するには、日本が核兵器をもつ以外に道はない。だがこれは言うだけ野暮である。日本は第2の広島を待つしかないのだ。


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