思想新聞2003年10月1日号【主張】
自由党と10月初めにも合併する民主党は次期衆院選挙に向けてマニフェスト(政権公約)の第一次草案を公表した。公共事業や地方への補助金の削減額を明示するなど数値目標が盛り込まれているのが特徴で、抽象的な公約に終わらず、政権交代によって日本がどう変わるかを示そうとした。その意欲は評価できよう。しかし、国家の支柱となるべき「憲法構想」にはまったく触れていないのは遺憾である。これではせっかくのマニフェストも「魂を入れず」である。憲法構想を棚上げにした政権獲得は許されない。
今回、民主党がまとめたマニフェストは次期衆院選で政権獲得した後、任期の四年間に実行する政策を数値目標と実施期限を明らかにしたもので、「小泉首相ら自民党総裁候補が出している政策は抽象論にすぎない。しっかりした民主党の考えがまとまった」(菅直人代表)との自賛策である。
たしかに道路公団を廃止し3年以内に一部の大都市を除いて高速道路を無料化したり、五年間に基礎年金の国庫負担率を二分に一に引き上げるなど、数値目標と実施期限を明確にしており、具体論に踏み込んだといえる。しかし、「社会保障を重視するのか、市場経済重視の『小さな政府』を目指すのかという財政運営の理念も自民党政権との違いははっきりしない」(朝日新聞9月19日)という曖昧さを残しているばかりか、財源となる税制とりわけ消費税については触れておおらず、問題先送りの色彩が強い。
安全保障ではミサイル防衛(MD)の導入を打ち出したものの、どのような防衛構想を描くのかついては「再来年に新しい防衛構想を策定する」として、ここでも問題を先送りにしてしまっている。
そして何よりもわかりにくにのは憲法問題である。民主党のマニフェストは憲法に一切触れていないのだ。これはどう考えてもおかしい。
政策論争が低調とされた自民党総裁選でも憲法問題は遡上に乗っていた。小泉首相は自らの政権では改憲を提起しないとしているが、結党50年に当たる05年には自民党の改憲案を作ると明言、亀井静香氏は2年以内に改正試案を作り3年以内に国民投票を実施するとの期限まで明示した。
民主党の鳩山由起夫前代表は「政権交代に向けて次期衆院選に憲法改正を掲げて挑むべきだ」とし、「政権交代のために、政権党が当然やるべき改憲を自民党に先駆けて実現させるという意欲が必要だ。憲法という本質的な問題で党がまとまらないなら政権などとれない」と強調している(産経新聞9月12日)。
にもかかわらず民主党はマニフェストから憲法問題を外してしまった。それは鳩山氏が言うように党がまとまらなかったからだろう。防衛構想の中身を示せなかったのも党の意見を集約することができなかったと容易に想像できる。
民主党と自由党との合併で危惧されたことは、旧社会党系の「反改憲・反安保グループ」に遠慮して新・民主党が明確な理念・政策を打ち出せないのではないかということだった。今回のマニフェストを見る限りこの危惧は当たっているようだ。
両党が合併に合意してすでに2カ月が経つ。この間、マニフェストづくりを本格化させ、8月初めに27項目の検討課題を取りまとめた。その際、憲法や安保政策など基本政策を棚上げにしたが、合併時には正式なマニフェストとして公表するとしていた。だが、今回は第一次草案とは言え、相変わらず棚上げを続けている。
自由党は 改憲に向けての「新しい憲法を創る基本方針」を2000年12月に発表している。自由党は合併に際して「政策は民主党のままでよい」(小沢一郎党首)としたが、憲法問題を棚上げすることにも合意しているのだろうか。これでは「理念抜きの数あわせの野合」との批判は免れまい。
改憲にこそ実施期限を示すべき
読売新聞は自民党総裁選について論じた9月18日の社説で「憲法改正の発議に国会議員の三分の二以上の賛成が必要である以上、憲法改正には与野党を越えた政党間の協調が不可欠だ。11月にも想定される総選挙は、憲法改正へ、各党の論議を加速させる好機である」として、民主党が憲法を棚上げにししていることを批判、「総選挙では各政党間で憲法改正への具体的道筋を競うのが望ましい」と注文を加えている。
これは当然の主張である。テロ特措法やイラク特措法などで明らかなように、集団的自衛権行使を明示しない限り国際貢献もおぼつかないからだ。
民主党は政権政党としての責任を担おうとするなら、憲法という本質的問題にこそ数値目標と実施期限を示さなくてはならないだろう。


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