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新型肺炎の猛威 政府は危機管理の視点で臨め

思想新聞2003年4月15日号【主張】

 新型肺炎「重症急性呼吸器症候群(SARS)」が世界各地で猛威を振るっている。すでに2000人以上が感染し約100人が死亡している(四月初め)。このため世界保健機関(WHO)は中国広東省と香港への渡航延期勧告を出した。WHOが感染症で危険情報を出したのは初めてのことであり、それだけに危機感が世界で高まっている。

縦割り行政の無責任な対応

 これを受けて政府は4月3日、SARSを「新感染症」と指定し、感染症予防法にもとづいて患者を強制的に入院させるなどの措置がとれることにした。また外務省は広東省と香港への渡航延期を勧告した。これらは当然の措置であるが、政府の対応はあまりにも遅すぎないのか、危惧される。
 米国やシンガポール、カナダはWTO勧告前に渡航自粛を出していた。しかもWTO勧告は2日なのに、日本政府のSARS対策が決まったのは3日になってからだ。遅れをとったのは、外務省が中国との関係に影響が出るのを避けたいので渡航延期勧告に慎重になったからだといわれ「亡命者連行事件の不手際の一因と指摘された『チャイナ・スクール』の弊害が、またも表れた形だ」(読売新聞4月4日)と指摘されている。これが事実なら由々しき事態である。国民の生命を守るべき国家としてあるまじき対応と言わざるを得まい。
 新たな感染症が猛威をふるっているのはSARSだけではない。20世紀は「医学の勝利の世紀」と呼ばれ、イギリスのフレンミングが発見したペニシリンをはじめ次々と抗生物質が世に出されたほか、ワクチンや新薬が登場して治療に絶大な力を発揮、死亡率は著しく低下した。だが、1970年代以降、エイズやエボラ出血病などの新種の感染症が30種以上も新たに出現し急激に拡大、「21世紀の新たな人類的課題」となっている。
 そればかりか抗生物質に抵抗性を持つ新手の結核菌が出現(耐性結核菌)するなど、征服されたと思われた病魔が再び頭をもたげてきている。耐性菌は結核だけでなく、病原性大腸菌「O―157」やMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やVRE(バイコマシン耐性腸球菌)など、日本でも広がり死者を出しているものもある。
 それだけに今回のSARAに対しての政府の対応の遅さは、危機管理意識の欠落として厳しく批判されなくてはなるまい。
 ここで思い出されるのはO―157による集団食中毒事件の教訓である。同事件は96年6月に最初に岡山県で起こったが、当時、厚生省は治療上の留意事項を記した通知文を各都道府県の食品保健課に送っただけで医療機関には送らなかった。その結果、適切な治療が行われず同年夏にかけて各地で死者を出す惨事を招いた。危機管理のずさんさによって国民の生命が守れなかったのである。
 危機管理には【1】危機の予測・予知【2】危機の防止・回避【3】危機の対処・拡大防止【4】危機の再発防止の4つのプロセスで対応しなければならないとされる。しかし、O―157事件では1980年代から米国で食肉を媒体としてすでに発生していたにもかかわらず、厚生省は情報収集を怠り予測・予知で遅れをとったことから防止・回避策をとらず、最初の発生の後、適切な対処・拡大防止策を立案できず、被害を広げたのである。
 今回のSARSへの対応の鈍さをみると、危機の再発防止策をきちんと確立しているとは到底思えない。
 WHOが初めての感染症危険情報を出すほど、危機は深刻なのである。それにもかかわらず省庁の縦割り行政に翻弄されて政府の対応策が遅れたとするなら、いったい危機管理の最高意思決定権者が誰なのか、国のシステムに対する根本的疑問を抱かざるを得まい。
 これは阪神大震災に際しても指摘されたことである。本来、最高意思決定権者(言うまでもなく総理)に正確な情報が迅速かつ一元的に伝達され、それにもとづいて的確なダメージ・コントロール(救援・援助など)が速やかに実行に移されてこそ危機管理である。

戦後の憲法体制が根本的欠陥だ

 むろん、SARSでは幸いなことに国内で患者が出ていない。だが、今回の政府の対応をみれば、はたして世界で猛威を振るう新感染症に今後適切な対応ができるのか疑問を残しているのである。それは単に厚労省や外務省といった省庁レベルの話ではなく、国家レベルの危機管理としての問題である。
 これも戦後の憲法体制と言うほかない。世界には危機が溢れており、これにどう対応するか、すなわち国民の生命と財産を守ることが国家の第一義的な使命である。このことを今一度、想起しておかねばなるまい。

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