思想新聞2001年9月1日号】【主張】
日本の治安がきわめて悪化してきた。95年の阪神大震災と地下鉄サリン事件によって崩壊したわが国の「安全神話」はそれから6年、いよいよもって日常生活レベルにまで崩壊が及んできたといえる。それほど深刻な状態にあることを我々は看過することはできない。
検挙率は実に19%まで低下
21世紀を迎えたわが国で大きな社会問題となってきたのは、犯罪が激増し、治安悪化が進んできたことである。
警察庁がまとめた今年上半期の刑法犯は、128万8千件で、これは戦後初めて100万件を上回った昨年同期を17万6千件(15.9%)も越えている多さである。このまます推移すれば昨年の244万件を上回ることは確実で、戦後最悪の治安悪化という事態を招きかねない情勢にある。
しかも、刑法犯のなかでも殺人、強盗、放火、強姦の凶悪犯が増加しているという憂慮すべき事態が進行している。
こうした犯罪増加の背景には外国人による組織的な犯罪が増えてきたことが挙げられている。今年上半期に刑法犯で検挙された外国人は3218人にのぼり、前年同期より八%増加している。これは検挙された数で、警察当局は外国人によると見られる未解決の犯罪が少なくないとしており、外国人犯罪の実数はもっと多いと指摘している。
加えて外国人犯罪の組織化・凶悪化も深刻である。各地で中国人による緊縛強盗事件が起こっており、山形では集団で資産家宅に押し入り強盗殺人事件を引き起こした。こうした冷酷非道な中国人グループによる凶悪事件が後を絶たない。
さらに、少年犯罪の増加、凶悪化が進んでいるということである。
刑法犯に占める少年の割合はほぼ5割で、「少年犯罪は成人に比べて10倍の割合で多い」(前田雅英・東京都立大教授)とされている。しかも凶悪犯罪が平成9年以降、毎年2千人を越える高水準にあるばかりか、西鉄バスジャック殺人事件や愛知・主婦殺人など「十七歳の闇」などと呼ばれた凶悪事件が相次いでいる。粗暴犯(暴行、傷害、脅迫、恐喝など)は昨年1年間に前年度比24%増の約2万人検挙されている。
また警察庁の調べによると、昨年1年間に全国の警察が扱った校内暴力事件やいじめに起因する事件、家庭内暴力事件はいずれも過去10年間で最悪となっており、少年を取り巻く環境はますます悪化してきている。それによると、校内暴力事件は前年比287件増の994件、いじめに起因する事件は前年比33件増の170件、家庭暴力は前年比455件増の1386件となっており、少年による刑法犯や粗暴犯の増加に伴って増え始めているという。
児童虐待も後を絶たない。さる8月中旬、兵庫県尼崎市で小学1年男子が両親(実母と義父)から虐待を受け殺されて遺体を運河に捨てられる事件が発生している。昨年、全国の児童相談所で受けつけた児童虐待の相談は18804件で、過去10年で17倍に増加している。
児童虐待は子供が直接に被害者となるものだが、法務省の調査によると少年院に収容された少年の過半数が保護者から何らかの形の虐待を経験しており、父母からくり返し暴行を受けた結果として問題行動を起こして
いる可能性があると分析している。
憂慮すべきは、このように犯罪が増加、凶悪化しているにもかかわらず、検挙率が著しく低下してきたことである。
戦後の検挙率は概ね60%前後で推移してきたが、89年以降は40%台に低落したばかりか、最近は年々検挙率が下がり、昨年は22.6%にまで激減していた。それが今年上半期ではついに史上最低の19%にまで下がっている。実に5件の犯罪のうち4件は犯人が捕まっていないのである。記憶に新しいところでは、昨年暮れの東京・世田谷での一家4人惨殺事件、あるいは今年5月の青森・弘前での武富士支店の放火殺人事件は、いまだ犯人さえ特定されていない。
「家庭崩壊」に歯止めが不可欠
以上の治安悪化の諸現象を見ると、第一にいえることは「家庭崩壊」現象が犯罪増加を招いていることである。とくに少年犯罪や児童虐待の背景には明らかに「家庭崩壊」があり、したがってこれを防ぐには「家庭再建」が不可欠であることが浮き彫りになっている。
第二には、「地域共同体崩壊」現象を指摘することができよう。検挙率が低下している要因として「共同体意識」が著しく後退し、隣り近所のコミュニケーションがなく、捜査官の聞き込み調査が困難になっているという。地域の「共同体再建」が治安改善に必要となっているといえる。第三には国際化(外国人犯罪)や情報化(ネット犯罪)に対応するために、国の不法出入国の取締の強化、情報時代への新たな犯罪防止システムの構築が急がれる。
家庭、地域、国家が一体となって治安強化へ取り組んでいかねばならない。


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