思想新聞2003年5月1日号【1面TOP】
北朝鮮に核全面放棄迫れ
米朝中3カ国協議
日韓米の結束が不可欠

イラク戦争の終結を受けて韓半島が動き始めた。昨秋以降、北朝鮮の一方的な核開発で北東アジアは緊迫の度を深めてきたが、4月23日から北京で米国、中国、北朝鮮の3カ国協議が開かれ、ようやく対話が再開されることになった。北朝鮮とともに「悪の枢軸」と名指しにされたイラクのサダム・フセイン体制は米英軍の圧倒的な軍事力の前に脆くも崩壊、この米国のイラク戦勝利が対話の門戸を閉ざしていた北朝鮮の強硬姿勢を崩したといえる。だが、協議はあくまでも予備協議の段階で対話は入口の前に立ったにすぎない。北朝鮮は対話を口実に核開発の時間稼ぎを狙っているとの見方もある。それだけに日韓両国は米国との結束を強め、中国とロシアを巻き込んで北朝鮮に核全面放棄と大量破壊兵器廃棄をさせる必要があろう。
イラク戦争は米軍のハイテク兵器の威力を改めて北朝鮮に見せつけたといえる。精密誘導型巡航ミサイル「トマホーク」はGPS(全地球測位システム)の位置情報で目標を完璧にとらえ、ステルス爆撃機B1からは2千ポンド(約900キロ)級のバンカーバスター(地下貫通弾)が投下された。精密誘導兵器の割合は湾岸戦争の時は7%強にすぎなかったが、今回は80~90%にまで高まった。こうして中東最大の軍事大国は脆くも崩れ去ったのである。
バグダッドで市民は米軍の助けを借りて巨大なサダム像を倒した。こんな国家指導者像が国の至るところに鎮座しているのは現在、イラクと北朝鮮ぐらいのものだ。金正日総書記はこのサダム像を金日成像とだぶらせて震撼したに違いない。
こうした米軍の圧倒的軍事力があったればこそ、頑なに多国間協議の受け入れを拒み米朝2国間協議に固執していた北朝鮮は「形式にこだわらない」と譲歩し、米朝中の3カ国協議を受け入れたのである。対北朝鮮交渉は力の背景がなければ道が開けないことを日本はよくよく承知しておかねばならない。
だが、北朝鮮に大量破壊兵器を廃棄させる道は決して平坦ではない。今回の3カ国協議も予備協議の段階でしかない。パウエル米国務長官も「長く、厳しい過程の始まりになる」と述べている 。この「厳しい過程」の中に軍事行動が含まれていることは言うまでもない。
ブッシュ米大統領は北朝鮮が核開発計画を凍結するだけでは不十分で、プルトニウムによる核開発計画と高濃縮ウランによる核開発計画の双方を全面的に放棄することを北朝鮮に求めるとしている。核開発の脅威が完全に払拭されるまで、米国は北朝鮮といかなる条約を結ぶ考えもない。北京での3カ国協議では、米国は核開発問題のみならず化学・生物兵器などの大量破壊兵器の開発と拡散問題、さらにミサイル開発も俎上に載せる。
これに対して金正日総書記が真っ先に求めるのは「体制保障」だろう。これまでも北朝鮮は米国と相互不可侵条約を結ぶことを要求してきた。何としても米国に「体制保障」を得たいのだ。だが、ブッシュ政権は北朝鮮側が核開発計画を全面放棄しなければ、経済援助も相互不可侵条約も議題とすらしないという姿勢で臨むだろう。
さる4月10日、北朝鮮が1月10日に宣言した核拡散防止条約(NPT)脱退の事前通告期間(90日間)が完了したが、米国はその直前に国連安保理に対応策を協議するように求めた。だが、安保理は中国の反対で統一した対応策が出せなかった。いわばその見返りなのが、中国がお膳立てしたとされる今回の3カ国協議である。
米国は北京協議で金正日総書記に核完全放棄の気があるのか、それとも対話が単なる時間稼ぎなのか、厳しく見極めようとするだろう。
この米国の対北朝鮮政策を日韓両国は全面的に支持すべきだ。軍事力のみを拠り所に「強盛・先軍」の国家づくりを目指してきた北朝鮮には軍事的圧力のみが有効に作用することを十分に弁えておかねばならない。イラク戦争を見て譲歩したことがその証左だ。したがって日韓米が結束して北朝鮮に軍事的圧力をかけ続け、核全面放棄へと導かねばならない。
ここで懸念されるのは、韓国の姿勢である。盧武鉉大統領は米韓関係を軽視する傾向があるからだ。イラク戦争で米支援の派兵を決定したが、これは米韓同盟の強化というよりも米朝対話への圧力という思惑からだといわれるほどだ。また盧武鉉大統領の描く韓半島の未来ビジョンには米国の存在が希薄である。
たとえば同大統領の「朝鮮半島の平和定着構想」によれば、年内に金正日総書記をソウルに招いて第二回南北首脳会談を開催し、軍事的な緊張緩和のための「ソウル宣言」を採択、日米など関係各国による金正日体制の保障を実現し、こののち04~05年で米朝、日朝関係の正常化を達成し、さらに06年から任期末の08年2月までに韓半島平和協定を締結し、在韓米軍の役割も見直すというプランを描いている。
この構想は南北間の対話によって軍事的緊張緩和が可能だとする「主体性」が強調されてはいるが、米国の軍事的プレゼンスの重要性を著しく軽視している。そのうえシベリア鉄道と韓半島の鉄道の連結などを通じ北東アジア共同体の構築を図るとして中国を視野に入れた経済圏を模索、その中心国家に韓国を据えている。ここでは経済的にも米国の存在を軽く考え、まるで米国抜きの北東アジア圏を目指しているかの印象を与える。
だから北朝鮮が米国との対話が行き詰まったら韓国に狙いを定めるのは目に見えている。南北対話を再開させ、米韓関係にくさびを打ち込んでくるのは想像に難くない。これに対して日本は拉致問題を通じて北朝鮮に妥協する余地はない。日米同盟はブッシュ―小泉ラインが存在する限り揺らぎそうにない。とすれば、日韓米三国の弱い輪はずばり言って韓国である。日米は韓国がずれないよう十分に説得していく必要がある。
一方、中国とロシアは北朝鮮が大量破壊兵器を持つことに不快感を抱いている。ロシアはすでに一月に大統領特使としてロシュコフ外務次官を北朝鮮に派遣、金正日総書記に【1】韓半島の非核化【2】核不拡散体制の堅持【3】94年の米朝枠組み合意の順守【4】北朝鮮の安全保障に関する協議開催【5】北朝鮮への人道・経済援助の再開の道筋を示し、国際対話を促した。
中国がどのような考えをもっているか明らかにされていないが、現時点ではロシア案と大差ないだろう。いずれにせよ北朝鮮は核全面破棄の道筋を明確にしなければ米国との対話が挫折し、文字通りに「次は北朝鮮」になるだろう。日韓両国はその覚悟も固めておくべきだ。


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