思想新聞2003年11月15日号【1面TOP】
改憲派が大勢を占める「憲法改正 国民投票法」制定急げ

●総選挙分析
第43回総選挙は11月9日の投票の結果、与党が絶対安定多数を確保し、小泉政権が続投することになった。今選挙の特徴は各党がマニフェスト(政権公約)を掲げて政策選挙を展開したことで、民主党が自由党との合併効果を発揮して躍進、二大政党制の基軸ができたことである。最も重要なのは「改憲阻止」を最大の論点とした共産党と社民党の共産主義政党が国民の拒否反応にあって大幅に議席を減らし、「護憲政党」の衆議院議席占有率がわずか3%にまで落ちたことだ。憲法改正には「改憲」「創憲」「加憲」など各党に温度差があるが、少なくとも改正の方向で足並みをそろえたことは間違いない。その意味で今総選挙によって憲法改正の国会基盤が整ったといえる。改憲へ本格的な取り組みが期待される。
今回の総選挙が「改憲スタート選挙」になったことは明白だ。産経新聞は「『護憲』を訴えた社民党と『憲法改悪反対』の共産党は解散時から大きく後退した。護憲で日本が抱える新たな課題に対処することは困難と国民が判断したためだろう」(11月10日付「主張」)と断じている。
まさにその通りだろう。護憲のシンボルだった社民党の土井党首は演説の大半を憲法に費やし「憲法九条がなくなればどんどん防衛費が膨らみ子供や孫が戦場に行く」などと“古典的”な護憲論を絶叫したが、有権者にノーを突きつけられ小選挙区で落選した。
これに対して改憲派が多数当選した。毎日新聞が選挙期間中に行った全候補者アンケート(同紙11月11日付)によると、当選した新議員480人のうち36%(171人)を憲法改正派が占め、「国際情勢によっては日本の核武装を検討すべきだ」という回答も17%にのぼっている。とくに戦後生まれ世代が改憲派全体の63%を占めており、毎日新聞は「国会全体の『改憲・核容認志向』は明らかに強まった」としている。
毎日が改憲派とするのは「改正に向けた手続きを始めるべきだ」と答えた当選者で、これは手続きまで踏み込んでいる改憲行動派と言った方がよい。新聞社のアンケートにも真っ向から改憲を主張する確信的な改憲派だ。選挙区事情からはっきり言い出せない改憲派も入れれば、改憲賛成派はさらに増える。いずれにしても国会で「護憲政党」が極小勢力となったことを受けて、憲法改正論議に弾みをつけねばならないだろう。
すでに2000年1月、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う」として、衆参両院に憲法調査会が設置され、昨秋には中間報告をまとめた。来年からは本格的な改正論議に入る。
それを踏まえ自民党はマニフェストに05年11月の党創立50年までに憲法改正案を策定することをうたった。九条の安全保障に関する改正要綱案は今年七月、同党憲法調査会の憲法改正プロジェクトチーム(谷川和穂座長)がまとめており、いつでも改正案が具体化できる段階にきている。保守新党が合流することによって改憲案づくりに弾みがつくことが期待される。
一方、今総選挙で躍進した民主党は、選挙前の10月に同党憲法調査会(中野寛成会長)が04年末をめどに同党の憲法改正案の骨格をまとめる方針を打ち出した。菅代表もこれを了承している。同党には積極改正派の旧自由党勢力と護憲が本音の旧社会党勢力が存在し、はっきり改憲と言えない弱点があった。今回のマニフェストも改憲に踏み込めず「創憲」という曖昧な表現にとどめた。
だが、政権交代をとなえる以上、こうした曖昧な態度をいつまでも続けるわけにはいかない。民主党内で改憲勢力が大勢を占め、しかるべき改正案を提示することができるかどうかが、政権交代可能政党になれるかのバロメーターになる。
国民に政権担当能力を示すには逆に憲法改正へのイニシアチブを取った方がよいとし、より一層積極的に改憲案づくりに入ろうとの意見もある。
公明党は憲法九条改正に消極的で、教育基本法改正にも否定的である。自公の二党連立になることによって影響力を増やし、自民党の改憲作業の足を引っ張らないか、懸念されている。だが、公明党も従来の「論憲」から昨年、「加憲」へと一歩踏み込んだ。
議員引退した中曽根元首相が超党派の憲法改正論議を促しており、議会の八割を越える自民党と民主党の二大政党が本格的な改憲案づくりに入れば、大勢は決まる。改憲はいよいよ政治日程に上ってこざるを得ない。
その手順は04年度中に「憲法改正国民投票法」を制定し、そのうえで05年に各党が改憲案を提示、そのすり合わせを行って改憲案を国会が発議し、それを国民投票にかけるというものだ。前述の毎日アンケートの改憲派は、この国民投票法制定を念頭に置いて回答しているわけだ。いずれにしても05年の改憲も不可能ではない段階に入ったといえよう。
■第43回総選挙結果分析■
二大政党と今後の展望
第43回総選挙の特徴は民主党が躍進して二大政党制に大きく動きだしたことと、社民党と共産党、保守新党の小政党が議席を大きく減らしたことである。保守新党は自民党に合流することになった。今後、自民、民主の二大軸に公明がからむ政局運営(当面は自公連立だが)が展開されると予想される。共産、社民の共産勢力が戦後最小の勢力に落ちたことは意義深いといえよう。
■選挙結果分析
[自民党]
自民党は議席数では240(追加公認を含む)で、過半数241と解散時議席247には届かなかったものの、前回の233に対して7増とした。自民党の過半数割れは93年(宮沢内閣=233)、96年(橋本内閣=239)、00年(森内閣=233)以来、丸10年続いており、小泉政権の人気をもってしても過半数獲得が困難なことを見せつけた。これは自民党の従来の支持基盤が崩壊しつつあること、特に都市部では集票能力に限界があることを示した。
自民党の比例得票率で見ると、96年には33%、00年には28%だったが、今回は35%で、森内閣時に比べて7%増と健闘した。獲得票は2066万票で、これは前回1694万票に比べて約400万票と増加させた(投票率は前回62.5%、今回59.8%)。比例区の獲得議席は69で、前回56に比べて13増。小選挙区の獲得議席は171で、前回177に比べて6減。小選挙区で民主党に競り負け、現有議席を確保できなかった。
[民主党]
民主党は議席数では177で、選挙前議席の137から40増と大躍進した。前回の00年総選挙では民主党127、自由党22の計149で、これと比較すると28増にとどまる。比例得票率は、00年には民主党25%、自由11%の計36%だったのに対して、今回は37%で、約1%増加させただけである。獲得票は2209万票で、これは前回の民主党1503万票、自由党656万票の計2159万票に比べて50万の微増である。
比例区の獲得議席は72で、前回(民主47、自由18)65に対して7増。小選挙区の獲得議席は105で、前回(民主80、自由4)84に対して21増と、小選挙区での議席増が顕著で、合併効果がでた。
▼自民党と民主党の二党合わせた小選挙区得票率80%・議席率91%、比例区得票率72%・議席率78%と、きわめて高率で二大政党時代が到来したことを示している。
[公明党]
公明党は議席数では34で、前回30に対して4増である。比例得票率は15%で、前回13%に対して2%増。得票数は873万票で、前回774万から約100万票増加させた。比例区の獲得議席は25で、前回23から2増。小選挙区の議席は9で2増。01年参院選で公明党は816万票獲得しており800万票台の基盤を固めたようだ。
[共産党]
共産党は議席数では9で、前回20から11減となり半減した。比例区得票率は8%で、前回11%から3%減。98年の共産躍進ブームの参院選では15%だったが、15%(98年)→11%(00年)→9%(01年参院選)→8%(今回)へと減らし続けている。比例区獲得票は458万票で、前回の669万票からほぼ3分の1の211万票を減らした。ピークの98年参院選の820万票に比べると半減した。低落傾向に歯止めがかかっていないことを示している。獲得議席はすべて比例区。
[社民党]
社民党は議席数では6で、前回19から13減、3分の1に減少した。比例区得票率は5%で、前回9%からほぼ半減。比例区獲得数は302万票で、前回の558万票から256万票減って、これもほぼ半減。小選挙区の獲得議席は1(沖縄2区)のみで、過去2回の総選挙で4議席を獲得していたが、土井党首が落選(比例区復活当選)するなど凋落を見せつけた。比例区の獲得議席は5で、前回15の3分の1になった。
▼共産党と社民党が日本における共産主義政党と位置づけることができる。したがって、この合計が日本の共産主義勢力のバロメーターとなるが、今回は議席数15、議席率3%、得票数・率760万、13%となる。前回総選挙ではそれぞれ39、 8%、1227万、 20%だったから大きく後退したことになる。日本における共産政党は90年代まで20%台を維持してきたが、21世紀に入り、ようやく10%前半に落ちた。今後、一桁に落とすことができるかどうかが共産主義政党との戦いの目安となるだろう。
[保守新党]
保守新党は議席数では4で、解散前9から大幅議席減となり、ついに解党し自民党に合流することになった。これは自由党が民主党に合流し、二大政党化していく中で当然の帰結と言える。
■今後の展望
二大政党軸はどう動くだろうか。小政党を見ると、公明党が今後も得票率15%前後の第三政党として一定の勢力を維持し、共産政党(共産・社民)は社民党が将来、土井党首の引退をもって消滅、組織をもつ共産党が一割勢力として残る。
自民、民主の二大政党以外の政党は得票率25%(4分の1)を維持、残りの75%が自民、民主両党の勢力となろう。今回総選挙結果がそうである。このことは二大政党の勢力が拮抗すればするほど、単独で過半数(とりわけ安定多数)を制することが困難であることを示している。つまり、どちらかの党が75%のうちの50%以上を占めなければ単独安定政権を樹立できず、その場合、相手の党は25%以下の勢力になる。そうなるには二大政党が崩れ一党優位とならなくてはならない。そうならず二大政党の力が拮抗すれば、単独政権が樹立できないというパラドックスに陥る。
これを打破し二大政党制を定着させるには、現行の選挙制度(比例区併用)の改革が不可欠となるだろう。


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