国際勝共連合 機関紙 思想新聞は創刊56年 通巻1898号 (令和8年5月1日)

EU東方拡大「巨大欧州」へ歴史的転換

思想新聞2004年4月15日号】ニューススコープ

 ヨーロッパ連合(EU)は04年5月にソ連のくびきから解放されたバルト三国とポーランド、スロバキア、チェコ、ハンガリー、スロベニアの中・東欧諸国と、キプロスとマルタの10カ国が加盟し、「25カ国体制」として新たなスタートを切る。これで総人口4億5千万人の「巨大欧州」が登場することになり、欧州は歴史的な転換点に立った。それに先だって4月2日には欧米軍事同盟の北大西洋条約機構(NATO)に中・東欧7カ国が加盟し、NATO26カ国体制も始動した。今後は従来のEUと新規加盟国間の平準化とぎくしゃくしている対米関係の是正が試金石になりそうだ。

26カ国NATOも始動平準化、対米改善が試金石に

 今回、EUとNATOに加わる中・東欧諸国はいずれも旧共産国だ。長くソ連・ロシアの強圧にさらされてきただけに悲願の欧州入りといえる。EUのみならずNATO入りで「米国の傘」が保障され、経済のみならず安保面での意義は計り知れない。その分、ロシアはNATOの東方拡大に心中は穏やかでないが、欧州の潮流を覆すことはできない。
 これでEU人口は米国の2億8千万人を大きく上回る。国内総生産(GDP)も米国の11兆ユーロに肩を並べる9兆6千億ユーロ。日本の1億2千万人・4兆3千億ユーロの2倍の規模を誇ることになり、米欧二極化を印象づけ、発言力も増す。
 すでに02年から単一通貨「ユーロ」がEU加盟15カ国のうち12カ国で使用されるようになり、「ユーロを使うようになってEUの存在を実感している」と言う人々が増えた。通貨統合は不可能に近いとされ「歴史的な実験」といわれたが、成功裏に前進している。EU域内での人、モノ、金の流れの自由化が一段と進み、経済面での一体化がより一層前進した。

新規加盟国には外国投資急増も

 それでも現EUと新規加盟国との格差は大きい。中・東欧諸国の賃金は西欧の四分の一程度で、失業率は20~10%という高さだ。これら諸国はソ連からの解放に次ぐ「第二の体制変革」を迫られる。司法、経済システム、あるいは食糧や建設などの安全基準を「EU基準」に改めなければならないからだ。また、
ユーロ導入に向けて財政赤字の削減も至上課題となる。これら改革は痛みを伴うだけに国民の反発も少なからずある。
 だが、メリットはもっと大きい。「EU基準」を満たせば低賃金を背景に外国投資の急増は間違いない。現に自動車メーカーが各地で工場建設に乗りだしており、EUの生産基地に成長する可能性が高い。そればかりかEU予算から農業補助金も目論める。民主主義国になった中・東欧諸国にとっては市場経済というもう一つの共通の価値観を共有することになり、欧州に完全回帰かつ経済成長への起爆剤になる。
 このようにEU加盟の利益は計り知れないが、平準化をどうスムーズに実現するかが今後の課題となる。
 加えて人の自由移動にも課題を残す。新たにEU市民になった人々はビザなしで域内を自由往来できる。労働力の移動には現EUは2010年まで制限できるが、それ以降は完全自由化され、低賃金労働者が大挙、西欧労働市場に参入してくる。そうなればドイツの東西統一で見られたような新たな失業問題も発生しかねず、国民の不満が高まることも予想される。
 それだけに「欧州人」としてのアイデンティティ造成が急がれよう。昨年6月に採択されたEU憲法草案によれば、EUとは「共通の未来を築く市民と国家によって形成され、国家は機能を移譲」し「加盟国のアイデンティティ、言語や文化の多様性を尊重し、目標達成に連携」する。加盟国の国民は同時にEU市民になる。さらに大統領(任期二年、首脳会議の議長役)、外相(外相理事会を主宰、欧州副委員長)、欧州委員長(首脳らの推薦を基に欧州議会が選任)の指導者を選び、共通外交を練り上げ、EU防衛庁を創設し、市民対話などを進めることになる。
 しかし、同草案は仏独とスペインや新規加盟国の思惑が対立し、結局、昨年12月に採択できなかった。今年に入ってスペインで与党が総選挙に敗北したこともあり、各国が妥協して六月にもEU憲法は成立する見通しだが、ここに「欧州統合」の難しさが露見している。

米国による安保 東欧は熱望する

 イラク戦争への対応ではまるでEUの共通外交など存在しないかのような対立を見せた。米英軍のイラク攻撃に真っ向から反対したフランス、ドイツ、ベルギーに対して、イギリス、スペイン、イタリア、ポーランドなどの東欧諸国が米国を積極的に支持し、欧州が二分されてしまったからだ。
 EU防衛庁の創設も容易ではない。仏独は03年春、EU司令部の創設構想を提案したが、「NATO(北大西洋条約機構)を骨抜きにし、欧州から米国を排除しようとしている」との警戒感が米国のみならずEU加盟国からも出され、政治面での統合の困難さを見せた。これはEU内の仏独の大国と中小国との主導権争いの現れだ。仏独は自らの手で米国に対抗する「大欧州」をめざし、一方の中小国はそうした仏独に懐疑的で米国の「安保の傘」を背景にする「大欧州」に安心感を抱いている。経済はEU、安保は米国との思いが東欧諸国には強いのだ。
 その現れが4月2日に中・東欧七カ国が新たに加わってスタートしたNATO26カ国体制だ。中・東欧諸国はソ連支配のワルシャワ条約機構から脱した保障がNATO加盟に他ならない。EUがNATOに対抗する、つまり米国に対抗する防衛機構をつくろうとすることには絶対反対、米国抜きの軍事同盟など考えられないのだ。 
 また「巨大欧州」が登場しても人々の価値観は必ずしも一致していない。北欧では個人主義が闊歩し、一人暮らし世帯が三分の一を占める。スウェーデンやデンマークでは同棲が当たり前のようになり、子供の三人に二人が婚外子だ。これに対して南欧では家族の絆が強く、親と暮らす多世代同居が一般的で、婚外子は10%未満にすぎない。当然、社会保障政策の違いも大きい。こうした価値観の相違がEU内でも顕著である。
 憲法作りではイタリアなど南欧諸国がキリスト教を伝統的文化として記すことを要求し、これには政教分離の原則を貫くことを求めるフランスなどが猛反発。域内のイスラム教徒の扱い(加盟申請しているトルコへの対応も)が不明確なままだ。

犯罪ネットワークへの対抗も課題に

 EU拡大によって、最も警戒されるのは犯罪者の自由往来だ。すでにEU内に犯罪ネットワークが張り巡らされ、武器や麻薬が域内に広がりつつある。昨年11月、ユーロポール(欧州警察機構)は「加盟国の増加で、EUにはマフィアが続々と侵入する」との警告を発した。EUには毎年、犯罪者を含む約50万人の不法移民が侵入し、その中にマフィアやテロリストが巧妙に紛れ込んでいると見られる。スペインの列車テロはその間隙を突かれた格好だ。
 このように課題は多いが、それでも統合にメリットが大きいことは論を待たない。対立とマイナス面は克服される可能性が高い。だが、経済のボーダレス化はもはや一国主義を許さないからだ。EUはこうした当面の課題克服をめざし模索していくことになる。

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