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「1票の格差」選挙制度より憲法改正で抜本改革を

この記事は2011年2月5日に投稿されました。

1票の格差が「違憲」あるいは「違憲状態」とする判決が相次いでいる。1月28日には福岡高裁が「違憲状態」とする判断を示した。昨年7月の参院選(選挙区)で最大5倍の「1票の格差」が生じていることへの司法の憲法判断である。なぜこうした判決が続いているのかと言うと、弁護士グループが全国の8高裁と6高裁支部で訴訟を起こしているからだ。いわば裁判闘争である。高裁で訴訟が提起されているのは、公選法が国政選挙の効力に関する訴訟の1審を高裁と規定しているからだ。参院選での1票の最大格差(議員1人当たりの有権者数)は最少の鳥取選挙区と最多の神奈川選挙区との間で5倍の格差がある。それで法の下の平等を定めた憲法14条に反するというわけだ。これだけ違憲判決が続くと、2013年の参院選は現行選挙制度では行えない。西岡武夫参院議長は年頭所感で、格差是正は「待ったなしの課題」と強調している。昨年12月には全国9ブロックの比例代表制に改める西岡改革試案も発表している。確かに「1票の格差」は問題だ。だが、それだけが問題なのだろうか。それ以前に「ねじれ国会」が象徴する現行憲法下の2院制度の矛盾こそ大問題ではないのか。いびつな選挙制度改革よりも大局に立った憲法改正論議こそ起こすべきである。

「ねじれ国会」が象徴する現行制度の根本矛盾

昨年12月に「違憲状態」とした広島高裁岡山支部の判決は、選挙区は県単位ではなく町や村などでの区割り変更や合区のほか、人口の少ない県について改選を6年に1回とするといった“解決策”を提示している。確かにそうした案も考えられるが、司法としてはいささか余計なおせっかいである。この判決は1・007倍の格差を「違憲」とした1983年の米ニュージャージー州の下院議員選挙訴訟を例に出し、米国憲法と日本憲法は同じく多数決ルールが根本にあるとしている。だが、こうした判断には首をかしげる。下院は人口比で選出されるが、上院はそうではないからだ。米国はいわゆる国(州)が集まった連邦制の国だから、各州に“平等”に2名の議席を与えている。人口が最大のカリフォルニア州(約3725万人)も最小のワイオミング州(約56万人)も2名と同じである。単純にいえば、1票の格差は66倍になる。日本の場合、連邦制の国ではないが、衆議院も参議院も人口比で選ぶ制度でよいのだろうか。
 そもそも2院制とは何なのだろうか、根本的な問いかけが必要だろう。一般的に2院制は審議に慎重が期待できるというメリットがあり、1院で決定したことも他院で違う角度から光を当て再考の機会が与えられる。それが最大の特徴とされている。しかし今日のような政党政治ともなれば(現行の選挙制度も政党政治を誘導している)、2院制の意味合いは減じている。国会の論議以前に政党は党内論議を重ねるので、同一政党が衆参いずれでも多数党なら参議院は衆議院のカーボンコピーにならざるを得ない。逆に現在のように衆参で多数党が異なれば、「ねじれ国会」となり、国政が停滞する。衆議院には解散があっても参議院にない。野党が参議院を”人質“にとれば、国会は身動きできなくなる。衆参で役割が明確に違っていれば話は別だが、それが似たような機能だからそうなってしまう。これは現行憲法が作った欠陥制度である。
 もとより衆参両院が平等というわけではない。衆議院に優先権を与えている。例えば衆議院で可決された法律案が参院で否決された場合、再び衆議院にもどされ出席議員の3分の2以上の多数で可決成立する。また予算は先に衆議院に提出する。予算案を参議院が30日以内に議決しなければ衆議院議決が国会の議決となる。条約承認も同様である。総理大臣指名も衆議院が優先する。内閣不信任案は衆院でのみ議決する―。しかし現実政治は衆議院優先がうまく機能していない。法律案再議決が出席議員の3分の2以上の賛成が必要とするのは高すぎるハードルだ。現に与党・民主党は3分の2(320議席)を下回っている。野党が参議院で多数をとって委員長ポストを独占し、審議拒否や引き延ばし戦術を駆使すれば、会期があるので法律案つぶしは容易で、衆議院の再議決は事実上不可能である。現行憲法が定めた2院制は空想主義なのだ。

2院制は貴族制と連邦制に由来する

2院制の原点に立ち戻って考えてみよう。2院制は議会制の母国とされるイギリスに登場した。13世紀に始まった同国の身分制議会が14世紀には貴族と僧侶の部会と、州の騎士や市民代表の部会の2部会制として発展し、以来、議会は2院制となった。現在のイギリス議会は世襲貴族や僧侶からなる上院(貴族院)と国民から直接選挙で選ばれた下院(庶民院)の2院制からなり、1911年に議会法を制定し下院優位の原則を確立した。下院は財政支出に関する法案の先議権を持つなど権限が強く、上院はほとんど名誉職的存在である。つまりイギリスの場合、立憲君主制であり、イギリス国教会を国教にしていることを根拠にして貴族院を置く2院制なのである。
 これに対して米国の場合、前述したように合衆国つまり連邦制であることを根拠にする2院制である。米国はそれぞれの州(ステート=国)から成り、上院は人口に関わりなく各州から2名ずつ選出され、下院は人口に比例して選出される。上院は大統領の条約締結権などに同意を与える行政参与権で下院に優越し、下院は予算先議権などの専権を持つという具合に上下両院で権力が明確に分けられている。
 日本の2院制の根拠は明治にさかのぼる。近代国家を形成する際、憲法制定においては新興ドイツ帝国に範を求め(ただし同国は連邦国家)、議会はイギリス流を採用した。明治憲法下では皇族や華族、国家功労者から成る貴族院と国民から選挙で選ぶ衆議院の2院制を採った。ところが戦後、立憲君主制の国でありながら貴族院制度が廃止されてしまった(GHQの置き土産だ)。それでも明治以来の2院制を継続しようとしたので、衆参いずれも国民の選挙で選ばれ、しかも両院で権限が明確に分立されていない「特殊な2院制」になってしまった。憲法43条は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」とし、44条では両議院の議員と選挙人の資格について「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない」としている。

憲法改正による3つの抜本改革案がある

これが常識と多くの日本人が思っているが(だから1票の格差と騒ぎ立てる)、世界では非常識なのである。日本のような2院制は他国には存在しないのだ。2院制はあくまでもイギリス型(立憲君主制)か米国型(連邦制)か、そのいずれかなのである。そうでない国はすべて1院制である。このように見ると現行制度の欠陥を改めるには、貴族院や連邦制を採用していない国のように1院制に改めるか、それとも米国のように衆参両院で役割を分け合うか、または貴族院的な性格の参院にするか、の3つの方法しかない。3つ目の場合、例えば学識者や首相系経験者など国家功労者を間接選挙で選出するような新たな参院にするかである。その場合、英国のように大半の権限は衆院に譲ることになるだろう。むろん、いずれのケースでも憲法を改正しなければならない。
 姑息な定数いじりではなく、国の形を考えて抜本的な参院改革に臨むべきである。

2011年2月5日

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