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ASEANの対テロ戦 過激派への「思想戦」打ち出す

思想新聞2004年1月15日号【ニューススコープ】

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は今年、加盟国相互間および日本を含む域外諸国との自由貿易推進や将来の「東アジア共同体」構築など経済統合・連携に向けて一層の飛躍が期待されるが、そのためにはテロ対策での協力体制の確立が喫緊の課題となっている。「宗教多元主義」の象徴といわれるASEANは、異なった宗教文化を背景にする加盟国や民族が集合する一方で、世界最大のイスラム教徒人口も抱えている。それだけに、イスラム根本主義を掲げるテロ組織「ジュマー・イスラミア」(JI)の活動はASEANの根幹を揺るがしかねない。

浸透するイスラム根本主義に対抗

 JIは国際テロ組織アルカイダの「東南アジア支部」的な組織であり、すでに広範なテロ・ネットワークを構築していることを示す事実が昨年は相次いで発覚した。
 象徴的なのが、9月下旬にパキスタン治安当局にJIメンバーであるとして逮捕され、のちに本国送還された13人のマレーシア人留学生。マレーシア国家警察の取り調べでは、一部の学生は01年に米国で「9・11同時テロ」が発生する直前にアフガニスタンに入り、アルカイダの軍事基地でテロ訓練を受けていた。彼らはここでアルカイダを率いるオサマ・ビンラディン本人から「ジハード(聖戦)」に関する説教を聞いたという。
 また、学生が留学前に在籍していたマレーシア国内のイスラム学校は、JIの最高指導者とされるインドネシア人のイスラム聖職者、アブバカル・バアシル師(インドネシアで国家反逆罪などに問われ現在は上告中)が創設者。これらの学生を選別してパキスタンに送ったのは、JI作戦司令官のインドネシア人、ハンバリ容疑者(米治安当局の拘留下)だった。留学生たちのこうした経歴からは、JIが彼らをアルカイダとの連携の下に「幹部候補生」として早くから教育・訓練システムに組み込んでいた事実が浮かび上がる。
 インドネシアでは、JIは02年10月のバリ島爆弾テロ(死者202人)への関与でその名が国際的にクローズアップされたが、昨年八月には同国の首都ジャカルタで米系のJWマリオット・ホテルに対する自爆テロ(死者12人)を実行した。逮捕された実行犯らの供述から、同テロはマレーシア人の元大学講師で爆発物専門家のアザハリ・ビンフシン容疑者(逃亡中)らが率いるJIの「新組織」が首謀したことが判明した。JIは01年以来、旧幹部ら多数が域内各国で逮捕されているが、その組織自体は決して弱体化していない。「マリオット事件」は「新世代」のメンバーが新たなテロ攻撃を計画・実行できることを実証した。
 これら「新世代」は早くからイスラム根本主義を体系的に教育されてきただけに、旧幹部ら以上に狂信的な反米・反西欧思想の持ち主だという。「マリオット事件」をはじめ、インドネシアで一昨年来発生したバリ島やマカッサルでの爆弾事件は、東南アジアでは前例がない自爆テロだったこともJIメンバーの狂信性を示している。
 域内各国のこうしたJI「新世代」は(上述のマレーシア人留学生のような例外を除けば)旧幹部のようにアフガニスタン渡航の経験はなく、その多くは教育・訓練をフィリピン南部のミンダナオで受けている。JIに訓練基地を提供しているのは同国最大の反政府組織、モロ・イスラム解放戦線(MILF)であり、訓練資金はアルカイダが提供していた。
 米誌「タイム」は12月上旬、情報機関の極秘情報として、ミンダナオには域内各国から約600人のJIメンバーが潜伏しており、同地はアルカイダにとってアフガニスタンに代わる重要なテロリスト養成拠点になっていると報道した。ミンダナオで訓練を受けた「新世代」のテロリストは、インドネシア国内でキリスト教徒とイスラム教徒の紛争地域になっているマルク州や中スラウェシ州でテロ攻撃の「実戦経験」を積んでいるとの指摘も出ている。
 一方、タイの場合は、イスラム教徒が人口の多数を占める同国「深南部」でイスラム分離主義組織と連携する密売グループが域内各国の反政府武装組織に武器を供給している。武器の多くはカンボジア内戦時のもので、昨年、JIが航空機を撃墜するための携行式ミサイルのカンボジア領内からの調達を模索しているとの情報も流れた。

ゴー首相「宗教家の役割に期待」

 これに対して、近年のJI組織の摘発に重要な貢献をしているのがシンガポール内務省公安局(ISD)だ。ISDは米中央情報局(CIA)と密接に連携して、JIメンバーの動向に関する情報を探知し域内各国に提供してきた。昨年は仏教国のカンボジアやタイの国内でもJI「細胞」が初めて摘発されたが、その背景にはISDの情報が決定的な役割を果たしている。また、八月にはタイ治安当局とCIAの合同捜査班がタイの古都アユタヤに潜伏していた上述のJI作戦司令官、ハンバリ容疑者を逮捕したが、その捜査過程にもISDの存在があった。
 米同時テロ発生の直後、シンガポール国内で計画されていた米国の公館・軍施設などに対する大規模なテロ攻撃を未然に阻止し、テロ組織としてのJIの存在を最初に明らかにしたのもISDであり、その卓抜した能力は先進諸国の治安機関も信頼している。
 そのシンガポールのゴー・チョクトン首相は、先月上旬に同国で開かれた英連邦首脳会議で演説し、JIなどのテロ組織に対処するには治安機関による警備などの物理的な措置以上に「イデオロギー(思想)戦」が重要であるとして、同国は今後こうした観点からのテロ対策を最重視することを強調した。治安維持では万全を尽くしている国のトップが達した結論ともいえる。この考えは、同国内では、JIがイスラム教義研究会などの「フロント組織」を通して根本主義を流布し、中産階級の敬虔なイスラム教徒をメンバーとしてリクルートしていたという事実に基づいている。
 こうした「思想戦」としてゴー首相が念頭においているのは、同国が昨年設立した研究・教育施設である「テロ研究センター」などを通じた公的な広報・啓蒙活動だ。今年から国内のマドラサ(イスラム神学校)で教養科目として他宗教の基本理念を学ぶことが義務付けられたが、これも長期的なテロ対策の一環である。
 他方で、ゴー首相は穏健派の宗教指導者が安全保障に果たす役割の重要性も力説、「宗教を悪用しテロ活動に駆り立てようとする根本主義者に対して、穏健派の指導者には異宗教間の調和・協調が域内の平和維持には死活的であることを是非訴えてもらいたい」と述べた。同首相は、特に穏健派のイスラム教国およびイスラム指導者の協力を要請している。この点では、国際的な非政府組織(NGO)などによる「宗際会議」や「超宗派運動」に期待せざるを得ない。
 いずれにせよ、ASEANの政府首脳が「文化安全保障」の概念を政策論として主張し始めたことは注目に値する。

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