思想新聞2004年3月1日号【主張】
核拡散の地下ネットワークの実態が浮き彫りになってきている。パキスタンの「核開発の父」と呼ばれるアブドル・カーン博士がリビアや北朝鮮、イランにウラン濃縮型の核開発技術を売り渡していたと証言、恐るべき地下核ネットワークが明らかになってきたからだ。
世界的に広がる核ネットワーク
これを受けてブッシュ米大統領は2月11日、「核の闇市場」を封じ込めるために、非核保有国による原子力発電所の核燃料生産の規制や国際原子力機関(IAEA)の機能強化などの新提案を発表した。同提案はすでに核技術を持つ国にのみ核燃料生産を限定するなど“不公平”だとの反発もある。だが、そんな“不公平”など問題にならないほど、核拡散の実態は深刻で早急に核拡散封じに当たらねば世界平和は著しく損なわれることになるだろう。
IAEAの調査によると、「核の闇市場」はカーン博士を元締めに世界各地にネットワークを形成していた。重要拠点となっていたのはパキスタンとアラブ首長国連邦(UAE)、マレーシア、ドイツ、スイス、南アフリカの六カ国。カーン博士の「右腕」とされるスリランカ人実業家がUAEのドバイを拠点にマレーシアの企業にウラン濃縮用の遠心分離器を発注、これにドイツの企業や英国の技術者が協力するといった具合にネットワーク化して核技術を“販売”していた。
拠点である六カ国のほかに日本やオーストリア、オランダ、ベルギー、韓国、スペイン、米国、中国、ロシアの九カ国の企業も部品や装備品を製造、出荷しており、その広がりは看過できない。彼らの取引先はリビア、イラン、北朝鮮の「ならず者国家」のほか、カザフスタンなどもあげられており、まさに一大核拡散ネットワークができあがっていた。
これは恐るべき事態だ。9・11事件後、米国を先頭に対テロ戦をアフガニスタンで展開し国際テロ組織の後見人となっていたタリバン政権を打倒しなければ、そして米国がイラクのフセイン政権排除の決断を下さなければ、恐らく「核の闇市場」は温存されたままになっていただろう。パキスタンが米国の強硬姿勢に恐れをなし、カーン博士に“自供”させたからである。
ブッシュ政権がテロに屈さない断固たる決意を示したことで、世界は「核の闇市場」を知ることになった。もし、放置されていれば、アフガンを拠点に国際テロ集団アルカイダが核兵器を手に入れたばかりか、イラクのフセイン政権も核武装し、さらにイラン、リビア、そして北朝鮮も核兵器を保有し、中東、南西アジア、北東アジアの平和と安全は風前の灯火となっていたに違いない。
そうなれば、世界中で核開発ラッシュとなり、もはやIAEAでは手に負えない状況となり、核拡散の悪夢が世界を覆っていただろう。そう考えるとブッシュ政権が仕掛けたアフガンでの対テロ戦とイラク戦がいかに世界平和に貢献していたか改めて認識できよう。
それだけに「核の闇市場」をこの際、完膚なきまでに壊滅しておかねばならない。パキスタンは過去の核開発、核販売を世界に詫び、その実態を解明して世界に公表する義務を負っている。また、すでに明らかになっている関与国も、自国企業や技術者がどう関わっていたのかを明らかにしなければならない。
イランは昨年11月、核開発を放棄し、リビアは12月に大量破壊兵器計画の全面放棄を受け入れた。両国はIAEAの「特別査察」を徹底的に受け、核開発から完全に足を洗わなければならない。北朝鮮は六カ国協議を通じて「検証可能かつ逆行不可能な完全な核放棄」を行わなくてはならない。
IAEA体制の抜本改革不可欠
と同時にブッシュ大統領が指摘しているように、過去30年間に平和目的の核開発を容認してきた核拡散防止条約(NPT)体制の抜本的改革に臨まねばならない。IAEAの権限強化は焦眉の急だ。核査察を集中的に扱う特別委員会をIAEAに新設することや追加議定書(特別査察の受け入れ)の締結国のみに平和利用の核開発技術の輸出を認めることなど、核拡散防止構想をより一層、現実化していかねばならないだろう。
こうしたブッシュ提案を世界は真摯に受け止める必要がある。核保有五カ国は核軍縮に向けて取り組まなければならないが、それにはロシアが共産体制を放棄することによって米国との間で核軍縮条約を新たに結んだように、中国が共産体制から脱皮することが前提となる。
いずれにしても世界的な核不拡散体制をどう築いていくか、各国は“国家エゴ”にとらわれずに新たな体制づくりに乗り出すべきである。核開発防止に包括的な網を世界に掛ける。それを明確にすることによって「核の闇市場」を封じ込めることができよう。


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