思想新聞2004年6月1日号 1面】TOP
核・ミサイルも前進なし日本は「制裁発動」に備えよ
小泉首相が5月22日に再訪朝し、拉致被害者家族のうち蓮池薫さんと地村保志さんの子供たち5人が帰国した。今回の再訪朝での成果はこれだけで、決して成功したとは言えない内容にとどまった。曽我ひとみさんの家族については第三国で再会、10人の安否不明者は再調査することになったものの、時期や調査方法も曖昧で棚上げのきらいが強い。核問題については六カ国協議で対応する考えを示しただけで、具体的な譲歩はなく、ミサイル問題も同様に前進がない。こういう状況下で日朝国交を急ぐ必要性はまったくない。拉致解決は言うまでもなく核完全放棄、ミサイル破棄など包括的解決なくして日朝国交はあってはならないことだ。
今回の小泉再訪朝はあまりにも唐突である。第一になぜ、この時期なのか、明らかでない。6月には北朝鮮に核放棄を迫る北京での六カ国協議が再開する予定で、その行方を見定めてからでも遅くなかったはずだ。北朝鮮の日米韓離間工作に乗るような小泉再訪朝は国際社会から見ても違和感をもたれた。
それでも日朝首脳会談で成果が上がるなら意義があったといえるが、結果は当たり前のものしかなかった。
即時・無条件帰国が当然だ
今回の小泉首相―金正日総書記の首脳会談では、拉致問題については①拉致被害者家族5人は帰国②曽我ひとみさんの家族は第三国で面会③安否不明者10人は再調査――の三点が合意されたが、いずれもきわめて不満足な内容だ。
第一に、拉致被害者家族五人の帰国実現は喜ばしいことだ。しかし、前回の日朝首脳会談で金正日総書記自身が拉致を認め謝罪しており、本来、被害者家族5人の帰国は即時・無条件であるべきだ。それを首相が迎えに行ったのは「人質カード」にまんまと乗せられたと言ってよい。成果でも何でもない。
第二に、安否不明者10人については「再調査」だけで済ませたのは、余りにもお粗末すぎる。北が提示した10人の資料はずさんきわまりなく、150項目の不審点が明らかになっている。
首脳会談で小泉首相はそれを一切質さずに「白紙の状態で再調査する」との確約をとりつけただけなのは、いかにも弱腰で被害者家族に誠意がなさすぎた。せめて調査期限、日本側の関与を明確にしておくべきだった。
第三に、拉致は安否不明者に限らず、北朝鮮に拉致された疑いのある「特定失踪者」は数百人に上っており、このうち18人は拉致の疑いが濃厚であるにもかかわらず、こうした「特定失踪者」については会談の俎上にも載せず、日本側から棚上げにしてしまった格好となったのは重大な失点である。
第四に、よど号事件の犯人の引き渡しを小泉首相は要求したが、金正日総書記は一切答えず、拉致問題を闇に封じ込めようとしていることがはっきりした。しかし、小泉首相はこれを追及せず、会談を切り上げてしまったのは、あまりにも低姿勢すぎる。
よど号犯とその妻らは有本恵子さんや石岡亨さん、松本薫さんらを拉致したことが判明しており、首相としてはよど号犯らの引き渡しをもっと強く要求すべきだった。
テロに屈する見返りの支援
このように拉致問題では、5人の帰国歓迎ムードでかき消されてしまった格好だが、明らかに屈辱外交だったと言える。
核・ミサイル問題でも何ら前進はない。金正日総書記は「朝鮮半島の非核化が目標に、六カ国協議を活用して平和的解決に向けて努力したい」と表明したにとどまった。
これは2月の六カ国協議での北朝鮮の立場を再表明しただけのことで、譲歩する姿勢すら見せなかった。ミサイルも同様で「弾道ミサイルの発射実験の凍結を再確認」した程度で、日本に向けられているノドン・ミサイルの増強に黙認してしまった格好となった。
これに対して日本は、①北朝鮮が日朝平壌宣言を順守する限り改正外為法と特定船舶入港禁止法案による制裁発動をしない②国際機関を通じ25万トンの食糧と1千万ドル相当の医療品を人道支援する③日朝国交正常化交渉を再開する――の三点を確約した。
だが、これらはいずれも大きな誤りだ。
第一に、日朝交渉を「対話と圧力」で臨むことを政府の基本指針にしていたのに、それを簡単に修正してしまったことだ。「相手は自分勝手な理屈で行動する独裁国家だ。常に制裁措置を発動できる態勢を整えておくのは当然」(読売社説23日)であり、「国際的合意を順守する」との日朝平壌宣言を破って核拡散防止条約から脱退した北朝鮮に対して小泉首相は「経済制裁を発動する」と通告するぐらいの強い姿勢を示すべきで「圧力」を有効に使って犯罪国家の余罪を追及していかねばならない(産経主張・同)。これが正論だ。
それを「日朝平壌宣言の順守」という前提条件があるとは言え、自ら放棄するのは狂気の沙汰だ。
第二に、北朝鮮は明らかに家族5人を「人質カード」に使っており、これに「見返り」を与えては決してならなかった。
これはテロへの国家としての基本姿勢のはずだ。拉致というテロ行為にカネでもって解決するような態度を取れば、今後、日本人はカネ稼ぎのテロに遭いかねず、北朝鮮も「人質カード」を小出しにしてくる危険性が高まる。にもかかわらず小泉首相はそれに乗るかのように、食糧・医療支援を約束した。いかに国際機関を通じてと言っても、誰が見ても「見返り」にしか見えない形で支援したのは間違いである。
交渉も時期尚早「圧力」強化を
第三に、拉致解決もなく、核・ミサイル放棄もしていない時点で日朝国交への交渉を再開させる意味はない。こうした態度はむしろ、懸案問題を棚上げしておいても日朝国交が可能との間違った北へのシグナルになりかねない。
このように、今回の小泉首相の再訪朝はとうてい評価できるものではない。巷間、言われるように「参院選対策を狙ったパフォーマンス」とすれば、それこそ「最悪の結果」である。
拉致問題の解決がなく、核の完全放棄がない現在、日朝交渉を行う必要はまったくない。日本は「制裁カード」をしっかりと固めるべき時だ。特定船舶入港禁止法案の今国会成立を急ぎ、さらに日米連携を再構築し、そのうえで韓国を説得して日米韓同盟をしっかり固め直すべきだ。これ以上、北朝鮮に翻弄されてはなるまい。
北朝鮮、核の完全放棄しか道なし

北朝鮮は小泉首相が訪朝した直後の02年10月に核開発を自ら暴露し、03年1月には核拡散防止条約(NPT)から脱退、「核カード」を使った生き残り戦略を発動してきた。その北に核放棄を迫る対話の場として昨年八月に六カ国協議がスタートした。
南北二カ国と米国、日本、それに中国、ロシアが同じテーブルについた六カ国協議では周辺五カ国はそろって北朝鮮に核放棄を求めた。これに対して、北朝鮮は「核保有」を盾にし米国に「不可侵条約」を結ばせ「安全の保証」を取り付けようと試みた。北朝鮮の要求は米国が重油提供と食糧支援を拡大すれば核計画放棄を宣布、さらに米国が不可侵条約を締結し電力損出を補償すれば、核施設の査察を許容するというものだ。つまり、北朝鮮は核放棄の口約束だけで米国から重油提供と食糧支援の実を受け取ろうという算段だ。米国は当然のことながらこれを拒否した。
今年2月の六カ国協議第2回会議でも北朝鮮は原則論を振りかざすだけで柔軟姿勢を全く見せず、議長総括では協議のプロセスを継続することに合意、第三回協議を北京で今年6月末までに開催し、全体会合の準備のために作業部会を設置することで合意した。
六カ国協議では日韓米三国は「核の完全破棄」、中露は「朝鮮半島の非核化」を主張。これに対して北朝鮮は核開発を行い得るとの立場で「核カード」の温存を図ろうとした。協議継続を六カ国が合意した以上、国際社会の制裁はあり得ず、したがってこれさえ取り付ければ北朝鮮にとって「安全の保証」を取り付けたも同然だと北朝鮮は考えている。核開発の時間稼ぎを行うのが北朝鮮の思惑だ。
だが、基本的には北朝鮮には一つの道しか残されていない。それは六カ国協議で合意し、核完全放棄を行って国際社会から「安全の保障」を取り付け、拉致解決やミサイル輸出禁止、生物化学兵器開発禁止などの包括的解決を行って、ソフト・ランディングを目指す道だ。これしか経済援助を受ける方法はない。
これを行わず、六カ国協議が決裂すれば、協議の舞台が国連安保理に移り、ここで経済制裁決議案が提出され、それに中露が賛成すれば、北朝鮮は完全孤立化するということだ。国連決議があれば日本は法整備しなくても経済制裁できる。国連決議がなくても国際社会が制裁の色合いを濃くすれば、日本はすでに成立させた改正外国為替・貿易法(外為法)によって制裁、さらに特定船舶入港禁止法案を成立させていれば、それによって制裁が可能となる。そうなれば、北朝鮮の経済破綻は決定的となり、瀬戸際外交を繰り広げても孤立化を深め、いよいよハード・ランディング(衝突や暴発などの軍事的対峙による結末)を迎えることになるだろう。
これを避けようと北朝鮮は時間稼ぎをしたいのだろうが、国際社会はいつまでも待つわけにはいかない。北朝鮮のみならず北東アジアはソフト・ランディングかハード・ランディングか、その選択を迫られる。北朝鮮が生き残りを図りたいなら核完全放棄しか道がないことを自覚すべきだ。


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