思想新聞2001年10月15日号【1面】
米国 国連重視、国際協調路線へ外交転換「衝突」回避へ高まる国連強化の声

月11日の米同時テロを受け、テロ勢力掃討作戦を準備していた米・英両政府は米東部時間の10月7日午後零時半(日本時間8日午前1時半)、テロ首謀者とみなすウサマ・ビンラディン一派と、一派をかくまうアフガニスタンの実効支配勢力タリバンに対する制裁攻撃を開始した。カブールなど複数地点の軍事施設やテロ訓練キャンプを対象に、B2ステルス爆撃機、B52爆撃機などによる空爆を実施。巡航ミサイルも発射された。
ブッシュ大統領は「われわれは忍耐強い成果の積み重ねによってこの紛争を勝ち抜く」と述べ、軍事作戦「不屈の自由」による、世界のテロ根絶を目指す強い姿勢を打ち出した。また、この攻撃は、アフガン国民に対するものではないことを明確にするため、空爆と並行して食糧空中投下など人道援助も実施された。
米英による軍事作戦の直後、ウサマ・ビンラディンの録画ビデオによる声明が全世界を駆け巡った。その中で、先の米同時テロを賞賛するとともに、パレスチナ和平とアラビア半島からの米軍撤退まで「米国に安全はない」と述べ、対米テロ続行を宣言している。
カタールの衛星テレビ「アル・ジャジーラ」が、米国の対アフガニスタン軍事行動開始約2時間後に放映したものだが、同テレビのカブール特派員に7日朝、届けられたという。録画日時は不明。
ビンラディンは「イラクの子供達が(国連制裁で)罪もなく殺され、イスラエル軍の戦車がパレスチナに侵攻しても、世界は何の反応も示さなかった」のに、米国が攻撃を受けると「偽善者たちは不信心者の頭ブッシュ(米大統領)を支持している」と激しい反欧米思想を披瀝し、「パレスチナに平和が訪れ、(イスラム教預言者)ムハンマドの半島から不信心者の軍隊が撤収するまで、米国は安全に暮らせないことを神に誓う」と述べ、この戦いは、ユダヤ・西欧対イスラム社会との「聖戦」であると強調した。
ブレア英首相は八日、同じカタールのテレビ局「アル・ジャジーラ」のインタビューに応じ、米英軍によるアフガニスタン攻撃について「これは西欧対イスラムという問題ではない。国際社会対テロリストとの戦いである」と強く語り、前日放映されたビンラディン声明に対し反論。軍事行動だけではなく激しい情報戦も展開されている。
<米・外交政策の転換>
一方、米国は今大きく外交政策の転換を図ろうとしている。9月24日、米下院は、滞納している今期分の国連分担金5億8200万ドルの支払いを認める法案を全会一致で可決した。すでに上院は支払いを承認しているので、すぐ実施されることとなる。これまで米議会は、国連の肥大化や非効率運営を批判し、分担金の支払いを渋っていた。今年2月に上院が今期の滞納分担金の支払いを承認したが、支払い条件などをめぐる論争が再燃し、下院の承認は延び延びになっていた。
これらの動きは、ブッシュ大統領が対テロ包囲網づくりで各国の支持、協力を求める外交を展開する中、国連への義務を果たしておくべきだとの声が強まったためだが、下院の反対派(国連分担金支払い)も「大統領の邪魔はしたくない」と矛を収めた形になった。地球温暖化防止のための京都議定書離脱問題や包括的核実験禁止条約(CTBT)批准拒否などを唱え、国際社会から孤立しかねなかったブッシュ政権が、ここにきてテロ撲滅で国際協力を得るため大きく舵(かじ)を切ったと言えるだろう。
また10月2日、ブッシュ政権はパレスチナ国家樹立を含む新たな和平提案を用意していることを明らかにした。イスラエル、パレスチナ双方が新提案に前向きな姿勢を示せば、反テロ軍事行動で米国が最も必要とするアラブ・イスラム諸国の理解と協力が得やすくなる。パウエル国務長官は「9月11日の出来事とは関係ない」と再三強調したが、「和平の押し付けはしない」という従来の中東和平政策から、積極的関与へと大きな一歩を踏み出したことになる。加えて、アフガンへの出撃拠点になりうるインドとパキスタンに対して、一九九八年の核実験後に科した経済制裁を解除し、両国の核保有を事実上認知する立場に転じている。
テロを非難しながらも米英の軍事行動には批判的なイラン、一定の支持を表明しながらも、慎重であるべきことを強調する中国、エジプト、シリアなど、いずれもテロの一掃は国連を中心とすべきことを訴えている。米英も、この度の行動が国連憲章において認められている個別的自衛権、集団的自衛権の行使であると主張しつつも、国際社会との協調なくして実効を望めない。国連を無視できなくなっているのである。ラムズフェルド米国防長官は去る9月18日の会見で、同時テロの首謀者と見られるウサマ・ビンラディンの組織とネットワークが50~60の国に及ぶとの見方を示し、「我々は(多数の)ネットワークを相手にしなければならない」と述べている。テロ一掃の戦いは「数年に及ぶ」(チェイニー米副大統領)のである。ビンラディンの組織を打倒するだけでなく、関連するネットワークに打撃を与えなければならないとすれば、まさに国際的テロ一掃ネットワークを構築しなければならないのである。
<「西欧の傲慢」と「イスラムの不寛容」>
タリバンと対抗する「北部同盟」のアブドラ外相は10月9日夜、タリバン側の指揮官40人が、1200人の兵士とともに同盟軍に投降したことを明らかにした。また首都カブールと北部の要衝を結ぶ幹線道路を制圧、「数週間以内のタリバン崩壊」の可能性にも触れた。だが、タリバン政権崩壊とテロリストグループの一掃とは違う。今回の「自衛の為の軍事行動」は不可避だったろうが、この制裁行動によってテロリストが一掃されるはずはない。それは当の米国が一番良く知っていることだろう。「少なくとも10年」(ジョセフ・ナイ)かかる戦いである。米国をはじめ国際社会は新たな方向性を見出し、変わらなければならないのである。パレスチナ和平の前進、グローバル化による貧富の格差の是正、文明間の相互理解の促進などである。これらが「ビンラディン信奉者」を再生産する土壌なのだから。しかもこれらは軍事行動によって実現できるものではない。
ハンチントン教授は「今後危険な衝突が起こるとすれば、それは西欧の傲慢さ、イスラムの不寛容、そして中華文明固有の独断などが相互に作用して起きるだろう」(『文明の衝突』)と指摘していた。ブッシュ、ブレア両首脳が強調するように、「この戦い」は西欧とイスラムの戦いではない。しかし、「西欧の傲慢」と「イスラムの不寛容」が地下水脈においてつながっていることも否定できない。テロリスト=「がん細胞」の摘出とともに、文明間の調和という「体質改善」の努力が並行して行われなければならない。その努力の場として、なんとしても国連に「宗教議会」の設置が不可欠であろう。


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