【思想新聞2004年5月1日号】ニューススコープ
一部家族、共産党と連動欺瞞的な「自衛隊撤退」要求
イラク国内で日本人三人が4月8日、「サラヤ・アルムジャヒディン(イスラム戦士軍団)」を名乗るグループによって人質にされた事件は、同18日に解放され、また同じく拘束された2人の日本人カメラマンらも解放され、事件は解決した。だが、この事件を通じて武装グループと歩調を合わせるかように自衛隊のイラク撤退を主張する左翼勢力の存在が浮き彫りにされた。人質の一部家族は共産党員と報じられ、それを裏付けるように共産党が一斉に自衛隊撤退要求運動を展開した。政府の強い姿勢によって事件が解決したものの、今後、国際勢力との連携に警戒が要するなどの教訓を残したと言える。
人質事件の真相究明はいまだ十分ではない。何よりも犯人グループの正体が不明なままなのが不安要因だ。4月8日にカタールの衛星テレビ「アルジャジーラ」が報じたところによれば、「サラヤ・アルムジャヒディン(イスラム戦士軍団)」と名乗っているが、地元関係者もこうした組織を掌握していない。しかも、かなり日本の事情に通じていると見られ、疑惑は深まっている。
「アルジャジーラ」が報じた拘束シーンは、一部で「自作自演説」が流されるほど “穏健”で、帰国した三人の話によると、怖がるシーンで演出するように指示されるなど、最初からかなり日本国内向けを意識している。しかも犯人グループの中に日本語を喋る人物が存在することがビデオの解析から判明したとされている(産経4月21日)。
また自衛隊の撤退を迫る犯行声明も従来のイスラム過激派のものとは異なって非イスラム的で「反戦活動家の主張に似ている」(内藤正典・一橋大学教授)との見方がある。加えて他の人質事件のケースにはない「殺害予告」もあり、疑問だらけの内容だった。過去の例から見てイスラム過激派は人質に取った国の国民に対して国際連帯を呼びかけることはないが、十日に公表された「釈放声明」(この時は釈放されず)では「首相が国民の意思を尊重しておらず、自分たちが日本国民の正当性を得た」などと、日本のマルクス主義集団と同じロジックを使っていると指摘されている。
共産党、反政府運動の先頭に
イラクでの人質事件に異様な動きを見せたのは一部家族だった。発生直後の記者会見では、まるで武装グループと口裏を合わせたように政府に自衛隊撤退を要求し、安否情報がないことや外相の「自衛隊を撤退させない」との決意表明を批判し、激しい政府批判を展開、挙げ句の果てには首相に面談を要求する始末で、まるで活動家のような行動ぶりだった。
それもそのはず、週刊新潮(4月22日号)によると、人質となった18才少年の母親は共産党員。共産党は事件翌日の9日から全国一斉に自衛隊撤退を求める街頭演説、署名活動を展開し、「自衛隊派兵によってこうした事件が起こることが危惧された。三人を見殺しにするな。自衛隊をすぐに撤退させろ」と、デモなどを繰り広げた。
朝日新聞などの左翼マスコミも家族の動きに便乗して「自衛隊撤退論」を張り、共産党の署名活動を一般国民も自衛隊撤退に立ち上がったなどと報じた。こうした連携について4月14日に日本外国特派員協会で開かれた記者会見では外国人記者から「メディアコンサルタントが付いているのか」との質問まで出される有様で、多くの外国メディアからテロリストの要求に同調する一部家族に疑問が呈された。
政府の毅然とした対応が救い
こうした一部家族らの非常識な動きとは裏腹に、政府は毅然と対応し、犯人グループが主張する人質の生命と引き替えの自衛隊撤退を断固拒否したのは大きな成果だったと言えよう。
国際社会では爆破や暗殺など生命を脅かす行為を通じて自らの政治的主張を達成しようとするのがテロと定義されている。だから、今回の人質事件も生命を脅かして自衛隊撤退という政治的主張をしているから、れっきとしたテロ行為である。そのテロへの最も有効な対抗策は「一切妥協しない」というのが国際社会の常識で、この対極が「屈して妥協する」ことだ。だから今回、政府は国際社会の常識を貫いたことになる。
それはダッカ事件の教訓が生かされたからである。同事件は1977年9月、日本赤軍が日航機をハイジャックし、乗客の釈放と引き替えに日本で拘置中の日本赤軍の仲間と600万ドルを要求、当時の福田内閣は「人命は地球よりも重い」として、この要求を受け入れた。その結果、日本赤軍は釈放された仲間と資金を使って大使館占領事件などテロを続発させ、「日本政府はテロに屈してテロの連鎖を招いた」と世界中から非難をこうむったのだ。
このダッカ事件からも明らかなように、日本政府がテロ集団の要求に屈すればテロの連鎖を招くところだった。また弱腰の日本政府を見越して日本人はあらゆるテロリスト、強盗、犯罪者のターゲットになるのは必定だったと言える。なぜなら犯罪が成功すればそれに味を占めて犯行がエスカレートし、あるいは真似る犯罪者が現れて事件が続発するのが世界の常だからだ。
もし自衛隊を撤退させていれば日本は国際社会への約束を簡単に反故にするエゴ国家との烙印を押され、世界中で信用を失墜させていたことは間違いない。その意味でも今回の政府の毅然とした態度は当然とは言え、高く評価されよう。武装グループの要求を退け邦人解放を勝ち取ったことは、対テロ戦の勝利と位置づけてよい。
邦人救出への法整備も課題に
故・奥克彦参事官は生前に外務省のホームページに「(テロ事件で)犠牲になった尊い命から私たちが汲み取るべきは、テロとの闘いに屈しないと言う強い決意ではないか。テロは世界のどこでも起こりうる。テロリストの放逐は我々全員の課題である」と述べていた。まさに今回、政府はこの遺言を守ったことになる。
しかし、課題が残されている。第一には、不可解な人質事件の真相究明をきちんとしておくことである。事件の背後に日本人(あるいは日本人グループ)が存在していなかったのか、とりわけ左翼集団が関わり、テロ集団と連携していないのか、ここが重要である。なぜなら、日本国内での国際テロも危惧されており、その場合、協力する日本人がいる可能性があるからだ。
第二には、「避難勧告」に反して最高危険度地域に指定された国・地域に日本人が入った場合の対処法である。「自己責任」
を求めるのはよいとしても、それだけでは済まされない。国家は国民の生命を守る義務を負っているからだ。自衛隊が邦人救出や在外公館を守れるように自衛隊法改正などを視野に入れて新たな法整備(憲法改正も含めて)を考慮すべきだろう。


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