思想新聞2001年12月15日 1面
世界は二度と見捨てるな「内戦の10年」に終止符も前途多難
アフガニスタン・タリバンのオマル師は12月6日、最後の拠点カンダハル明け渡しを決め、7日朝から武装解除が始まった。
1994年に同市を本拠に結成して以来7年余り、あっけなく消滅した。タリバンのカンダハル撤退を受け、ブッシュ米大統領は7日、インド洋からバージニア州ノーフォークに帰還した空母エンタープライズ艦上で演説し、「タリバンは2カ月前、ほぼ全土を支配していた。いま彼らに残されているのは、いくつかの洞穴だけだ」と勝利を宣言した。内戦から明け暮れた十年に終止符を打ち、いかに平和を回復するかが今後の焦点となる。
国連アフガン担当・ブラヒミ事務総長特別代表を調停役として、11月27日から12月5日まで、ドイツ・ボンにおいて、アフガン主要四派の代表によるタリバン後の新政権作りの協議が開催された。主要四派とは、【1】反タリバンのタジク人などの少数民族が作る北部同盟 【2】ザヒル・シャー元国王派 【3】パキスタン在住の亡命パシュトゥン人で作る「ペシャワル・グループ」 【4】亡命アフガン知識人で元国王とは距離を置く「キプロス・グループ」である。これらアフガン各派は、異なる民族を母体とし、これまで互いに反目、裏切りを繰り返してきた歴史があり、相互不信は根強く、政権合意は極めて困難と思われた。しかし、国連や周辺諸国からの働きかけもあり、幾度か暗礁に乗り上げそうになりながらも、12月5日「原則合意」に至った。
<原則合意の内容>
合意の内容は、〈1〉暫定行政機(30人で構成。議長=首相格=1、副議長5、他24人)を即時樹立する〈2〉同機構はカブールへの多国籍軍の早期進駐を国連安保理に要請する〈3〉2年以内に最高裁を設置する――の三本柱から成っている。
閣僚ポストの割り振りは、ザヒル・シャー元国王派内の人選のもたつきなどで完了しなかったため、調印された合意文書では、元国王派で最大民族パシュトゥン人の有力指導者、ハミド・カルザイ元外務次官を議長(首相に相当)にすることを明記するにとどまっている。しかし、協議の中で、国土の80%を支配する北部同盟が閣僚ポストの約半分(16人)を占め、ラバニ政権(現在でも国連代表権をもっている)時代のアブドラ外相、カヌニ内相、ファヒム国防相の三人が暫定行政機構でも同じポストに就くことで合意した。さらに、タリバン政権時代の女性抑圧への反省から、女性二人が閣僚に起用されることになっている。
アフガニスタンの暫定行政機構議長に決まったハミド・カルザイ元外務次官(46)は、18世紀半ば以降、5人の国王を輩出した名門ポパルザイ部族の長。祖父、父はザヒル・シャー元国王治政下で国会議長を務めていた。インドの大学で政治学を学び、アフガン侵攻ソ連軍への抵抗戦で活躍、1992~3年、ラバニ政権下で外務次官を務めていた。政治的志向は穏健で他民族とも協調できると期待されている。
<前途多難、すでに分裂様相>
タリバン後をにらんだ「協議」の真の狙いは、米英両軍のタリバン掃討作戦に支援され、国土の大半を制圧した北部同盟による権力独占を早急に阻むことにあった。北部同盟はタジク人主体の少数民族の混成組織であり、米欧を中心とする国際社会は、タジク単独政権が内部抗争により崩壊した過去を教訓に、最大民族パシュトゥン人を取り込んだ暫定権力の即時樹立を求めたのである。
北部同盟内部も一枚岩ではない。ドスタム将軍(ウズベク人)とラバニ元大統領(タジク人)の確執である。ドスタム将軍は6日、アフガン主要四派が5日に調印した暫定行政機構(内閣に相当)に関する合意について、同じ北部同盟のタジク人勢力が主要閣僚を独占したことへの不満から、同機構への参加を見送る意向を明らかにした。
6日夜のラジオ・アフガンによると、アフガン北部マザリシャリフ郊外で同日朝、ドスタム将軍の部隊とタジク人で構成されるラバニ派部隊との間で銃撃戦が発生したという。タジク人が主導した暫定政権作りに対し、北部同盟の内部で早くも亀裂が生じたことになる。
ドスタム将軍は、1994年初頭に、同盟を結んでいたラバニ氏を突如裏切り、カブールを攻撃した過去がある。相互不信が残っており、今後北部同盟内の主導権争いが顕在化することも考えられる。また、パキスタン在住のパシュトゥン人らでつくるペシャワル・グループ代表のギラニ氏も6日、イスラマバードで記者会見し、暫定行政機構について、「閣僚の配分が不当だ」と不満を表明している。
国連と米国の説得があったのだろう。モスクワ訪問中のパウエル米国務長官に同行している米政府高官が、米記者団に9日明らかにしたところによれば、ドスタム将軍はこれまでボイコットを宣言していた、アフガニスタン暫定行政機構に協力すると米側に表明したという。しかし、薄氷の上に立つ新政権であることに変わりはない。
<周辺諸国も国益を越えた協力体制を>
アフガン主要各派には常に周辺諸国の影がちらついている。北部同盟に対しては、ロシアなどが軍事支援を行い、ペシャワル・グループには、タリバン以外のパシュトゥン人勢力育成に関心を持つパキスタンが後押ししている。キプロス・グループはイランの財政支援を受けているとされる。「国民全体を代表する政権づくり」の道筋を示すには、こうした周辺国の関与にどれだけ自制を促せるのか。さらに国益を越えた協力態勢を構築できるかにかかっている。国連の指導力に期待したい。
<早急な支援体制を>
冬季入りした現地には、救援物資に頼るしかない飢餓状態にある人々が七百万人もいると報告されている。国連や非政府組織(NGO)の救援活動と救援物資輸送路の安全を確保し、救援網を拡充するうえでも、治安維持の為の多国籍軍の早期展開はぜひとも必要である。世界は、アフガンに無関心であった過去を繰り返してはならない。


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